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アセスメントに検査を使うのはなぜですか?


はじめに

アセスメントという言葉は、社会の中のいろいろな分野で使用されています。発達支援の分野で使用されるときは、ある子の支援を検討していくときに、現在、どのような状態にあるのか、丁寧に捉えていくことを意味することが多いです。

検査は、そのアセスメントで使用されるツールの1つです。支援者、かつ心理職として仕事を続けていると、検査道具は、ペンやパソコンのように、身近で必要なツールです。けれども、検査を受ける側にとっては、そうではないことが殆どかと思います。

検査、という言葉を聞いて、ドキッとする方はゼロではありません。また、検査の結果が、何かものすごく強い効力を持つものなのではないかと、心配される方もいらっしゃるのも、事実です。

この記事は「検査をするのはなぜですか?」のような、ご相談を考えている保護者の方からいただいた質問、「アセスメントにツールを使う理由は何ですか?」「検査実施前に、どのように保護者の方へ説明をしているのですか?」のような、支援者の方からいただいた質問へ、私なりに回答してきたことの一部をご紹介するものです。

実際には、回答は1つずつ異なります

記事内で使用しているスライドは、私が大学の授業や支援室主催のセミナーなどで使用してきたものに手を加え、所属している研究会が主催したセミナー(2021年10月24日開催)で使用したものです。

 

捉えにくいものを共有しやすい形に変換するためのツールの1つ

最初にお伝えしておきたいことは、検査は、捉えにくいもの(知能、情報処理の傾向、おしゃべりの様子など)を、捉えやすい形、共有しやすい形(数値、図、言葉など)に変換するためのツールの1つ、ということです。

たとえば、ある子について、「おしゃべりが伝わりにくい気がする」「おしゃべりが上手になった気がする」という印象(気がする)を周囲の人が受けたとします。その子の周囲の人が受ける印象として、大切な情報の1つとなります。

けれども、ある状態をどう捉えるかは人によって異なり、また、どのように表現するかも人によって異なるため、共有できる範囲は、「ある子のおしゃべりについて、その人は伝わりにくい気がする、という印象を受けている」というところまでとなります。

検査は、そこに一歩踏み込んで、その印象の背景にあるもの(どうしてそのような印象を受けたのか)を、数値、図、言葉など変換しようとするものです。

検査は、検査者の言動が決められている状態での行動観察です。検査者が、自分自身の主観から、可能な限り離れることができるようサポートする道具でもあります。主観から可能な限り離れるということは、同じような条件であれば、誰が実施しても同じような結果に繋がる可能性が高い、ということでもあります。

検査・面談・観察などを通して、「おしゃべりが伝わりにくい気がする」という印象を「名詞の代わりに形容詞を使うことが8割だった」という数値と言葉に、「おしゃべりが上手になった気がする」という印象を「動詞や形容詞の活用の誤りが1割未満になった」という数値と言葉に、のように、共有しやすい形に変換して、これからどのようにしていこうか、ということを考えるための手がかりの1つにしていきます

例として、おしゃべりの様子を挙げましたが、他のことについても、同様です。

ある人が受けた印象や、見えにくいもの、捉えどころがなさそうなものを、何とかして見えやすい形、捉えやすい形にしようと試みることは、いろいろな心理学の基盤でもあります。

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1つの検査で捉えることができることは限られている

検査1つ1つにも特徴があります。捉えようとするものが異なり、実施方法も様々です。そして、万能なものはありません

検査の実施者として、日本語版の検査の開発に携わった方々から研修を受けることができる機会があれば、可能な限り参加するようにしていますが、どなたの言葉からも、子どもたちのために開発したこと、この検査でできること(可能性)、できないこと(限界)が伝わってきます。

たとえば、WISC-Ⅳ(ウィスク・フォー)という知能検査は、世界中で使われている検査の1つです。この検査は、比較的短い時間(60分前後、長くても90分程度)で、知的な発達の水準と、個人内の力のうちいくつかのバランスを捉えようとする検査です。短い実施時間で済むことで、検査を受ける子どもの負担が減る可能性は高くなります。大切なことの1つだと思います。一方、検査項目を絞り込んでいることで、例えば、文字を読む力、文字を書く力、文を構成する力などを捉える検査は含まれていません。知的な発達の水準と、読み書きの力を照らし合わせる必要があるときには、WISC-Ⅳだけでは足りないだろう、ということになります。

目的に合わせて、検査を組み合わせていく必要がでてくることは、少なくありません。そして、検査それぞれの特徴をもとに、組み合わせを検討するのは、検査者の仕事の1つです

新しい検査も出てきます。これまでの検査が改訂もされます(WISC-Ⅳの改訂版WISC-Ⅴも出ます)。その都度、検査者も学び、情報収集しています。

 

検査・観察・面談はセット

検査中の子どもの様子は、検査者が、実施の手順で決められた通りに働きかけをした場面での、子どもの反応です。生活の中で困り感を感じたり、困り感が現れたりしている場面とは、異なることも少なくありません。

この、場面の違いも踏まえて結果を総合解釈していくプロセスが「こんなふうにすると、〇〇さんは力を発揮しやすいかもしれません」という考察に繋がっていきます。

注)難聴がある場合、手先を動かしにくい場合、場面緘黙の場合など、個々の状態とアセスメントの目的に合わせて、検査の実施方法が調整されることはあります。イレギュラーな方法での実施、そしてその解釈も、検査者の仕事の1つです。

機関によっては、総合解釈をする人を決めたのち、検査・観察・面談、それぞれ、別の人が担当することもあります。連携は簡単ではありませんが、複数の視点でみていくことのメリットも得られます。

 

報告書への質問や要望は伝えて大丈夫です

検査はこれからに繋げていくためのものです。

検査者は、目的に沿って検査を選び、実施し、報告書を作成しますが、もしかしたら、知りたいことが書かれていないことがあるかもしれません。説明を聞きながら、より知りたいことが出てくるかもしれません。質問は躊躇しなくて大丈夫です。検査の内容のように、伝えられないことは伝えられないと返事があるでしょうが、それ以外のことは、追記できることも少なくありません。

また、検査結果の情報量は少なくないため、報告書が10ページ近くになる場合もあります(これまで、連携のために海外からいただたレポートは20~30ページ近いものも少なくありませんでした)。保護者の方にとって、想像していたより多かったな、長いな、もらっても読むのが難しいな、などと感じたら、1~2枚にまとめたものを作成できるか要望を出して大丈夫です。逆に、少ないな、短いな、もっと詳しく知りたいな、などと感じたら、より詳細なレポートを作成できるか要望を出して大丈夫です。これらについては、事前に、検査者側から提案することも大切かと思います。

報告書は、こうでなければならない、ということはありませんので、いろいろ、質問したり要望をだしたりしていただいて、大丈夫です。

 

お知らせ:支援者がオンラインで質問できる非公開グループを作成予定です

以前、支援室主催のセミナーに参加してくださった方々向けに、セミナーで使用した資料を閲覧できる、少人数の非公開のグループ(Facebook活用)を作成していました。

今回は、この記事の内容のような、一般的な内容について、支援者がオンラインでいつでも質問できるグループを作成予定です。現在、一人一人からの質問にはお答えすることができていないことから、代わりになるものを少しずつスタートできたらと考えてのことです。期間や料金などが決まりましたら、お知らせします。

 

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