読み・書きに関する、ご相談のプロセス | ことばの発達と学習支援専門|DIVERSE-ダイバース-

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LD・ADHD・ASD

読み・書きに関する、ご相談のプロセス


はじめに

ときどき「LDかどうか判断してもらうことはできますか」というお問い合わせが届きます。SLD(限局性学習症)、ディスレクシア(読字が困難な症状)やディスグラフィア(書字が困難な症状)などの用語、その状態像が知られるようになってきたことは大きいのだろうと思います。

医学的な診断は医師のみ可能ですので、診断名・診断書が必要な場合は、医療機関の受診をお勧めしています。医療機関の選択基準は、ご家庭それぞれかと思います。以下は、迷われる方にご紹介している資料のうちの1つです。

発達障害診療医師名簿(一般社団法人日本小児神経学会)

主に、読み・書きで、お子様が力を発揮することが難しそうなとき、学び方へのヒントを得るためのプロセスは一人ずつ異なりますが、大まかな流れは以下です。

この記事は、ご相談を考えている保護者の方向けでもありますし、どのような観点でアセスメントをしているのか教えてほしいという支援者の方からのご質問への回答でもあります。

1 ノート・テスト・作文などを通して、お子様が書いた文字を確認しています

最初に、ノートやテストのように、お子様が書いたものを確認させていただいています。教科や書いた場所(学校なのか塾なのかなど)は問いません。

読み・書きが困難、と一括りで表現しても、その様子は一人一人異なります。ノートやテストに書かれた文字が、見本のようにきれいに形が整っていることもあります。逆に、何が書いてあるのか、初めて見た人には分からない形(文字のようなもの)が並んでいることもあります。

前者の場合、何か支援が必要になるのか?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。けれども、文字を形通りに写す力と、読む力(形を見て音に変換する力)は別の力になります。形が整った文字を書いているけれども、読むように促すと、自分で書いた文字であっても、読めなかったり、たどたどしく読んだり、読み誤ったりする子どもたちもいます。

誤字脱字のパターンもみています。特殊音節の表記に誤りが多いのか、ひらがな、カタカナ、漢字のうち、どの表記に誤りが多いのか、などです。

書いた内容についてもみています。誤字脱字が多くても、第三者として読みにくい文字が多くても、内容を理解して書いているかどうか、書きたい内容を書いていそうかどうかもみています。

2 視力・聴力について確認していただきます

子どもたちは体も発達途上です。見る力も、聞く力も発達していきますが、視力や聴力は悪くなっていくこともあります。見えにくい、聞こえにくい状態は、読み・書きにも影響します。

視力の場合は、遠方視力と近方視力の両方を確かめてもらうことをお勧めしています。離れた場所だけでなく、手元が見えるかどうかは、とても大切です。「視知覚(しちかく:形などを捉える力)」についても確かめてもらえる医療機関もありますが、その場合でも、先に視力、です。見えにくい状態だと気付かれないまま「視知覚」について検査をしても、視知覚に問題ありという結果になることが殆どで、読み・書きの難しさの背景を捉えることに繋がりません。

聴力は、スクリーニング検査ではなく、低い音から高い音まで、小さな音から確認できる聴力検査をおすすめしています。読み・書きに、なぜ聴力?と思われるかもしれません。言葉の音は、いろいろな高さの音が組み合わさってできています。低い音が聞き取りにくいと、母音を聞き取ることに労力を使います。高い音を聞き取りにくいと、サ行音など、高い音が使われている音の聞き取りに労力を使います。

音が「ある・ない」は判断できても、言葉の音と音とを聞き分けることが難しいこともあります。その場合には、言葉の音に関する聴力検査をお勧めすることがあります。

音の聞き分けに労力を使ったり、聞き分けそのものが難しい状態で、どの音とどの文字を結び付ければよいのか学習することは、発達途上の子どもたちにとって、簡単ではありません。聞こえ方を確かめることも、大切なことです。

3 知的な発達について確かめます

知的な発達と読み書きの力との間に差がありそうか、ということをみていきます。知的な発達を確認するために支援室で実施できる検査は以下です。

・WISC-Ⅳ(ウィスクフォー)
・田中ビネー知能検査Ⅴ

検査それぞれに特性がありますので、どちらを使用すると、お子様の知的な発達について確認しやすいか、また、支援へのヒントが多く得られそうか、ご家庭の様子、学校での様子、見せていただいたノードなどの様子から考えて、ご提案しています。

ケースバイケースですが、小学校4年生以上で、学校内外のテストを通して、学年相応の教科学習の内容を十分に理解できていると判断した場合には、知的な発達について確かめるための検査の実施については、優先順位を下げる、ということもしています。

4 文字の読み、書きの正確さや速度について確かめます

1文字ずつ、単語、文、文章などでの、読みの正確さや速度について確かめます。読み・書きに焦点をあてた検査で、支援室で実施可能なものは以下です。

スクリーニング
・STRAW-R(改訂版標準読み書きスクリーニング検査)
・ELC(読み書き困難児のための音読・音韻処理能力簡易スクリーニング検査)

読みの力
・CARD(包括的領域別読み能力検査)

下記の検査の中に、読み・書きについて焦点をあてたものが含まれています。実施した際に、その部分を参考にすることもあります。

・LCSA(学齢版言語・コミュニケーション発達スケール)
・KABC-Ⅱ

これらの検査にも、それぞれの特性がありますので、どれを実施すると、支援方針を絞り込みやすいか考えて、ご提案するようにしています。ご希望にも可能な限り応じています。

5 言葉の力について確かめます

児童期以降の言葉は、話し言葉と書き言葉が相互に影響を与えながら発達していきます。ですから、読み・書きに難しさがあると、言葉の発達に影響を与えます。語彙の不足、書き言葉で多く使用される文法の身に付きにくさ、などです。

小学校高学年以上で出会った場合、言語の発達に影響が出ていることもあります。「言葉の発達がゆっくりかもしれない」とご相談にみえたケースで、たどっていくと、読み困難だったお子様もいます。また、読み・書きの難しさとは別に、言語発達の困難さを併せもっている場合もあります。

言葉の力を確かめるための検査で、支援室で実施可能なものは、以下です。

・LCSA(学齢版言語・コミュニケーション発達スケール)
・PVT-R (絵画語い発達検査)
・STC(新版構文検査-小児版-)
・J.COSS(日本語理解テスト)など

話し言葉の様子をみることもあります(J-CLD版ナラティブ再生言語評価法‐所属している研究会で開発中のものを使用することもあります)。また、WISC-ⅣやKABC-Ⅱを実施した際には、その中の一部を参考にすることもあります。

言葉の力について確認するのは、読み・書きの困難さを、機器などを使って補っていくとき、目標とすべきは情報の保障ではなく、そのあとの、言語力向上だと考えているからです。

知りたいこと・知るべきことを理解したり、伝えたいこと・伝えるべきことを表現したり、自分について考えたり、とことん悩みぬいたり、そんなときに使う言語を身につけていってほしいと考えています。

6 必要に応じて、情報処理の特性やコミュニケーションについても確認します

読み・書きが難しい、の背景は一人ずつ異なります。情報処理やコミュニケーションの特徴が影響していることもあります。必要だと判断したら、検査の特性などを踏まえて実施のご提案をしています。

・KABC-Ⅱ
・DN-CAS認知評価システム

・DTVP-3(Development Test of Visual Perception-Third Edition) ※日本語版ではありません
・WAVES『見る力』を育てるビジョン・アセスメント

・CCC-2(子どものコミュニケーション・チェックリスト)
・AQ(日本語版自閉症スペクトラム指数)など

総合的な解釈から支援方針を絞り込みます

何か1つの検査を実施することで、読み・書きについて、ここに支援が必要です!このように支援すればよいです!と分かれば、子どもたちへの負担は、ぐっと減らせるのだろうと、今でも頭をよぎります。

けれども、子どもたち含めて、人の発達の様相は一人ずつ異なるために、その子が、読み・書きに困難さを感じている背景も様々です。いくつもの背景が重なっていることも珍しくありません。

読み・書きに困難さを感じている背景を想定して、それを捉えるための面接や検査を実施した後は、総合的な解釈をしながら、支援方針を絞り込みます

総合的に解釈した結果は、レポートにしてお渡ししています。ご希望に応じて、数値が含まれている詳細なものと、様子を記した簡易なものと作成することが多いです。お渡ししたものは、他の機関へ持参していただいても大丈夫ですし、ご希望に応じて他機関へ郵送などもしています。

支援を開始した後について

支援方針を具体化して開始したら、続けるだけではなく、持続可能な方法か(持続に無理はかかっていないか)、効果は見込めそうかなど、確認しながら、試行錯誤が続きます。

連携のために、私立、公立問わず、学校の先生方が足を運んでくださることも少なくありません。特別支援教育が広がり、合理的配慮の事例も積み重なってきたことで、様々なことをご存知ですし、その学校にとって初めてのことであっても、取り組むことを前提で考えていらっしゃる先生方に多く出会ってきました。

機器やアプリの使用、テストでの配慮(読み上げ、時間の延長、回答方法の変更など)、宿題の量や内容の調整など、その子の、その時その場に合わせて、いろいろな支援が継続されています。

個別には、読み・書きの正確さを高めるための支援と、書かれている内容を理解したり、伝わりやすい文を構築したりするための支援とを、両輪で進めます。

魔法のように一瞬で解決するような方法はありませんが、根拠をもとにした支援と試行錯誤の継続は変化に繋がります

読み・書きに関するご相談のプロセスの一端をご紹介しましたが、何かしらのヒントに繋がればうれしく思います。

※連携先の学校名について、お問い合わせいただくことがありますが、私よりお伝えすることはございません。支援室をご利用いただいているお子様の学校名をお伝えすることになるからです。

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